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三匹のおじさん、五島列島、長崎、天草を走る: T太、T村、ギャリさんのサイクリング旅行(その1)

2024/10/26



霧が晴れたら 小高い丘に立とう

名もない島が 見えるかもしれない

 小さな子供にたずねられたら

海の碧さをもう一度伝えるために

今 瞳を閉じて

今 瞳を閉じて

(荒井由美『瞳をとじて』)


いざ行かん、長崎五島列島へ!


「次のサイクリングは、長崎に行こう」と提案したのは、私ことT太だったような気もする。そして、それを受けて島好きのT村が、「それならば、五島列島に行こう」と言ったかも知れない。よく覚えていないが、いずれにせよ、二人とも長崎県に足を踏み入れるのは初めてだから、エキサイティングな旅になりそうな気分がした。


加えて今回の旅には、私のオーストラリア人の友人ギャリさんが加わった。ギャリさんは、私が暮らすメルボルンの近所のおじさんで、年齢は71歳、仕事は大工だ。彼は、私のサイクリング旅行の談話を耳にし、一年くらい前から「オレもいっぺん日本でサイクリングをしてみたい」と言い出した。私たちよりも10歳年上だが、まだ現役の大工だし、スラロームスキーもするし、私とはカヌーチームの仲間で、一人でザックかついで徒歩旅行にも行く元気いっぱいのアウトドアおじさんである。昨年孫も生まれたが、まだまだ鼻息は荒い。そういうわけで、これまでと事情が違うが、国際合同部隊も面白いだろう。


でも実は、私もT村も次の行き先はもっと地味な島根や鳥取なんかを考えていた。ところが、ギャリさんが来ることになって、「それなら、もうちょっと国際的に名の知れた場所に行こうぜ」という話になった。多分ギャリさん的にもオーストラリアに帰ってから、「自転車でジャパンのナガサーキーに行ってきたんだぜ!」と自慢するだろうから、より知名度の高い場所にしたっていうわけだ。長崎だったら外国との絡みで歴史も面白いだろう。島根と鳥取の人には悪いが、「シマーネ」とか「トットーリ」だと、オーストラリア人には分からないだろう。「トットーリってイタリア?」なんて思うかもしれない。



そこで長崎だ。でも、だからといってT村も私も出島を見て、チャンポン食べれば満足ってことはあり得ない。どうせなら遠くの五島列島まで行って、日本初体験のギャリさんをギャフンと言わせてやろうという趣向だ。遠ければ遠いほど旅は面白くなる。T村は仕事もあるから、五島と長崎までの参加で帰京だが、私とギャリさんは、もう三日ほど天草から熊本まで走ることにした。



品川駅でくじけそうになったこと


10月初旬、意気揚々とギャリさんは来日した。二日ほど私の拠点の伊東でのんびりし、10月12日長崎に向けて出発した。初日は、羽田から長崎空港まで飛び、佐世保のビジネスホテルまで行き、翌日佐世保からフェリーで五島に渡って走り始める。


伊東から羽田、そして佐世保までは輪行だ。つまり、自転車は畳んで袋に入れてかついで行く。出発前日、私はギャリさんに輪行の手ほどきをした。大工だけあって、すぐに自転車を分解して畳む手順を覚えてくれた。「これで大丈夫!」と、安堵した私は、ギャリさんを連れ、伊東線に乗り、熱海から東海道線に乗り換えて品川駅までたどり着いた。


ところが、品川駅の人混みでギャリさんは怖気づいた。東京の本格的な人混みを見たことがなかったのだ。彼は、普段メルボルン郊外の山間で、自分の建てた家で静かに暮らしている。ベジタリアンの彼は(魚は食べるが)、畑を耕して自給自足みたいな生活をしている。


電車なんて滅多に乗らない。海外旅行も50年ぶり。人口の多いアジアは初めてで、大都会東京に足を踏み入るのも初めてだ。だから、たかだか品川駅の人混みでも、びっくり仰天というわけだ。その人混みの中でギャリさんは立ち止まり、深呼吸をし、自転車と荷物を抱えて歩き始めた。輪行は日本人だって大変だから、ギャリさんの緊張感は想像に難くない。


歩き始めてすぐ、ギャリさんは京浜急行の改札にはさまって動けなくなった。自転車と荷物を抱え、携帯電話を取り出して改札にタッチして通り抜けるのはなかなかテクニックがいる。私は何十回もやっているから、スルッと抜けたが、ギャリさんのような人は、改札を通る前に携帯をポケットから出して手に持っておくという発想がない。改札の前で立ち止まり、身体中のポケットを叩いて携帯をやっと探し出し、顔を真っ赤にして格闘しながらやっと改札を通り抜けた。窓口の駅員は、改札を破壊されたらどうしようと凍りついている。背後には通勤客があふれかえっている。私は、他人のふりをして遠目に眺めている。


改札を抜けると、待っていたのはホームにあふれかえる人混みだ。自転車をかついで通り抜ける隙間はごくわずか。「どうしたらいいの?」と、ギャリさんは泣きそうな表情で立ちすくむ。かわいそうだが、いちいち構っていられない。飛行機に乗り遅れたら大変だ。私は、ギャリさんを冷たく見捨てて、どんどんホームを歩いて行く。振り返ると、七つ道具を抱えた弁慶のような格好で、自転車と荷物を抱えたギャリさんが人混みの中をついてくる。

京浜急行にどうにか乗りこみ、羽田に着く。国内線出発ロビーは3階だから今度はエスカレーターだ。これがまた狭くて、異常に長い。ギャリさんがエスカレーターに乗るのも20年ぶりくらいだろう。メルボルンは平らな建物が多くてビルが少なく、よってエスカレータも少ない。ギャリさんは、どうにかエスカレーターから転げ落ちることもなく三階出発ロビーに着いた。そのとたん私の脳裏に、ちあきなおみ「喝采」のメロディーが鳴り響いた。ギャリさん、よくやった!


エスカレーターを上がったところに、親切にもT村が待っていてくれた。ギャリさんとは初対面だが、T村は台所キャビネットを商う営業マンだから、愛想良く満面の笑みを浮かべ「ナイスミーチュー、ギャリさん、ウェルカムツートーキョーねえ!ベリーベリーワンダフー!」昔は英語教師だった私がのけぞるようなカタカナ英語だ。ギャリさんも、T村の弾けるような笑顔を見て安心したらしく、笑顔でT村と握手を交わした。



長崎空港で佐世保行きバスに乗り遅れたこと


よくあることだが(私たちの青森旅行初日のブログを参照)、羽田発ANA便は、出発が20分遅れ、到着も15分ほど遅れた。そのせいで、三匹のおじさんは午後5時半発の佐世保行き空港バスに見事に乗り損ねた。


「困ったなあ、どうやって佐世保まで行ったらいいだろう?自転車で走る?」と、日本人クルーのT太とT村は顔を見合わせた。佐世保は40キロも先だから、おじさんたちの貧脚では、今夜中には行き着けない。「新大村駅までタクシー、そこから大村線だ。そこから佐世保まで4、50分だ。これしかない。大村線は、あと20分で快速が来る」と、T村が携帯をパンパーンと叩いて乗換案内を検索した。


それをT村はギャリさんに説明する。「私たちは、バスキャッチNGね。新大村ステーションまでタクシー、そこからトレイン、わかる?オッケー?ベリー、イージー!」これでT村は英語を話しているつもりなのだろうか?これじゃ通じるわけがない。だから私がちゃんと通訳した。ギャリさんもそれを聞いて、険しい表情になった。空港にタクシーはたくさんいたが、自転車3台なんて乗せられないから一人一台に分乗した。快速電車が来るまで20分もないから猛ダッシュでタクシーを飛ばし、5分前に新大村駅に着く。私とT村はタクシーから飛び出して、切符を買ってホームに急いだが、ギャリさんがなかなかこない。タクシーのところまで戻ると、支払いでもたついている。電車はもう来そうだし、私は焦るあまり絶叫しそうになった。そこをどうにか、ヒーヒーフーとラマーズ法深呼吸で耐え忍ぶ。待つこと3分、支払いが済み、私はギャリさんに、「走れ、電車がくる!」と(英語で)叫んだ。ギャリさんは、青くなって自転車と荷物を担いでどたどたホームに走った。幸い、新大村駅の改札は広かったので、ギャリさんも今度ははさまらないで通過できた。



大村線の快速に飛び乗り、佐世保に着いたときはもう真っ暗だった。私たちは、通勤客が行き交う駅前広場で、放心したように自転車を組み立て、宿泊地のビジネスホテルまでの短い距離を走った。ビジホにチェックインするや否や、旅の始まりで興奮気味のT村は、「晩ごはんは何を食べる?このあたりは佐世保でも繁華街だから色々あるぜ。どこか美味しいところへ行こうよ。串焼き?居酒屋?寿司?ちゃんぽん?」と、携帯をパンパン叩きながらわめく。私は、「そうねー、どうしようかねえ、土曜だから、どこも空いてないかもよ」と、気乗りしない調子で答えながら、ギャリさんの顔色をチラ見する。彼は汗だくで、髪の毛くしゃくしゃ、クタクタの表情だ。そこで、「朝も早かったし、移動も大変だったから、今夜はホテルの食堂で食べちゃおうよ」と私は提案した。はしゃぎ気味のT村は難色を示し、「えー、ホテルの食堂?こんな場所で?フロントの兄ちゃんも、ここは美味しくないから勧めないって言ってたぜ」と言う。その横でギャリさんは、ぶっ倒れそうな顔で立っている。「だって、ギャリさん、もう電池切れだぜ」と、私がギャリさんにわからないように日本語で言うと、T村もちらっとギャリさんの顔を盗み見て、「そうだな、こりゃ無理だわ」と納得した。


そこで、私たちはシャワーを浴びて汗を流すと、ビジホ2階の和食処「しき」で遅い夕食を食べた。中生ジョッキをぐびっと飲んで、ポテトフライや天ぷらや皿うどん食べたギャリさんもだいぶ元気を取り戻し、「ベリーナイス!」とニッコリ笑った。まさに「千里の道も一歩から」という気分だ。



さあ、明日はいよいよ、三匹のおじさんたちは、朝一番のフェリーで五島列島に渡るのだ。


(三匹のおじさん、五島列島、長崎、天草を走る、第一話終わり、第二話に続く)


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