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空模様の加減が悪くなる前に

2021年11月14日


(今回は、「―です、ます」調ではなく、「―だ」調で書いた。やっぱり、その方が自分の気持ちを自由に書ける気がしたのです。もしかしたら、今後はずっとそうするかも。)


春だからか、天気の変化が激しい。でも、メルボルンは1日のうちに四季があると言うくらいで、いつだって暑くなったり寒くなったりする。10月以降は夏時間だから夏なのだが、地球は人間の都合を考えたりはしてくれない。


空模様の加減が悪くなる前に、ちょっと町まで散歩に出る。


町というのは僕が住んでいるベルグレーブのことだ。ダンデノン丘陵の入り口の町だ。山肌に張り付いた、ちょっとした高原のような町だ。最初に引っ越した頃はそんなところが嬉しかったが、今はもう見慣れてしまって、景色を見ても最初の頃のようなウキウキ感はない。


(ベルグレーブ全景)
(ベルグレーブ全景)

最近はミラーレス・カメラを買ったので、カメラをぶら下げて散歩写真を撮りがてらそこらを一周してくることが増えた。犬でも飼っていれば犬連れで歩けるのだが、犬は飼ってないから一人でぶらぶら歩く。オーストラリア人は観光地にでも行かない限り、まず絶対カメラを下げて歩かない。この頃はケータイの時代だから、余計にカメラを下げている人はいない。だからどうしても目立ってしまう。もっと山奥に行けば、一眼レフを下げて歩いている人もいるが、大概は長い望遠レンズで鳥や動物の写真を撮る人たちだ。


(雨の時は鳥も雨宿り)
(雨の時は鳥も雨宿り)

だから、普通のカメラを下げて歩いていると怪しい人に思われる。この間近所のパン屋のシャッターのスプレー描きのグラフィッティを写していたら、「お前、警察か?何で、そんないたずら書きの写真を撮っているんだ?これを美しいとでも思うのか?」と、通りがかりの親父に言われた。「私は、写真が趣味で、色々なものの写真を撮るもんで」と返事したら、「ふーん、お前は日本人だろう?」と言われた。一体どういう質問だ?写真が趣味なのと日本人であることに関連はないだろ?これは間違いなく、日本人=カメラ好き、という先入観(偏見)からの発言であろう。例えば、黒人だから犯罪者だと決めつけたりすることを、レイシャル・プロファイリングと言って、これは立派な人種差別である。こんなふうに扱われたら裁判ものだ。しかし、日本人だから写真好きと思われるのも迷惑だ。もちろん、私はたまたま日本人で、写真好きなのは確かだが。とにかく、通りがかりの親父に、嫌味っぽいことを言われるのは面白くない。


(ベルグレーブの映画館の壁画)
(ベルグレーブの映画館の壁画)

別の時も、カメラを下げて自転車に乗っていたら、ロードレーサーのおばさんにこう話しかけられた。「あそこに、美しい大きな木があったけど、その写真は写したんでしょうね?」僕は、そんな木には気がつかなかったら、「だって、木なんかたくさんあるから、気がつかなかったよ」と答えた。そしたらおばさん曰く、「あんた、どこ見て走ってんのよ」。うるせい、大きなお世話だ。どこをみて走ったって、俺の勝手だ。


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オーストラリア人の多くは、しょっちゅう気さくに人に話しかけてくるが、こんな風に、カメラを持っているだけで、グラフィッティの写真を写して何になるんだだの、あの木の写真を撮れだの言われるのは、大きなお世話である。ほっといて欲しい。


しかし、そんな風にオーストラリア人の素朴なところを鬱陶しく思ったりするのは、ここのところコロナで閉じ込められているせいもあるだろう。僕は、いささかオーストラリア人の素朴な気質に辟易していることは間違いない。今だったら、きっとどこにいても同じような気分になるに違いない。日本にいたら、日本人が嫌になるんだろうし、アメリカにいたらアメリカ人が嫌になるだろう。オーストラリアにもいいところがたくさんあるのに、いちいち色々なことが気に触ってくる。だが、考えてみれば、それはオーストラリアの問題と言うより、僕の問題であることに気が付く。


(ベルグレーブには本屋が二軒ある)
(ベルグレーブには本屋が二軒ある)

だから、そんな気分が治らないかなと思って、実は、カメラを持って散歩に出るのだ。パチパチ写して、そして家に帰ると、早速写真をパソコンに映し出してみる。初心者だからあまりロクな写真はないのだが、写真の我が町は、どうしてどうして、なかなか素敵な町だったりするのだ。


ところで、「空模様の加減が悪くなる前に」と言うのは、実はチャーというギタリストの曲名だ。「空模様の加減が悪くなる前に、行くあてのない旅に出よう…北の果てにも人生があり、南の果てにも歴史がある…」(天野滋作詞)という演歌みたいな歌詞の曲だが、僕は中学の頃からチャーのギターが好きで、ファーストアルバムに入っているこの曲は1万回くらい聞いた。だから、散歩に出る時「空模様の加減が悪くなる前に」というフレーズが自然に頭に浮かんでくる。


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行くあてのない旅に出られるのも、 きっともう少しの我慢だ。それまで近所をうろついて我慢しよう。

 
 
 

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